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アートで魅せる数学の世界
美しさを追い求める数学講師 岡本健太郎 - MOVの100人インタビュー
--まずは簡単な自己紹介をお願いします。
「大人の数学教室」をしている和から株式会社の岡本健太郎(おかもと・けんたろう)です。MOVは会社が借りているので利用しています。
もともと数学が好きで、数学専攻で博士まで進みました。
卒業後は、少しだけ研究員や出版関係の仕事をした後、和からに入社して、ずっと数学を教えています。
研究者ではなく会社で働くことを選んだのは、教育に興味があり、教育で日本全体に影響を与えられるようなことをしたいと思ったからです。
--数学のどのような点に惹かれたのですか?
書道をずっと習っていて、アートにも興味を持ってきました。どうすれば美しくなるかを考えること、美しいものを突き詰めることが好きです。
数学にも計算だけではない美しさがあって、アートに数学が使われていることもあり、共通性を感じます。
また、アートは自分の世界を作って広げるものですが、数学も自分で定義して世界を作ることができ、自由です。その点でも似ていて、数学にハマっていきました。
--専門はどんな分野ですか?
結び目理論と整数の理論を合わせたような分野です。子どもの頃から立体交差の構造が好きで、その点が紐の絡み方に似ていてあこがれていたからです。
また、結び目の理論というのは、DNA鎖のような一見して構造が分からないような複雑な形でも、本質の部分がどんな構造なのかを数式を使って分類することができます。
--どんな人に教えていますか?
大きく分けて2種類のお客様がいらっしゃいます。
1つは数学そのものに興味があるタイプで、数学的な思考力を身に着けたい、苦手意識をなくしたい、趣味で勉強したいなど需要は様々です。
もう1つはデータサイエンス、統計学関連がメインで、資格試験対策や実務でのデータ分析を目指す方ですね。
データサイエンス系にも2種類あり、データサイエンティストを目指すような数式を必要とする方もいれば、数式はさておきエクセルでデータ分析をしたいという方もいらっしゃいます。
--和から株式会社の数学教室の特徴は何ですか?
日本の数学教育を根底から底上げしていくという意識が大きな特徴であると思います。
たとえば、単価の概念が分からない、すぐに求められない人は、意外にも多いです。なんとなくわかっているつもりでいると「これぐらい分かるでしょ」と省略し、コミュニケーションに齟齬が生じます。
そういった流れは良くないと考え、日本の数学をベースアップして変えていこうしています。そのため、易しいところから高度なところまで幅広く対象にして、丁寧に教えています。
そして、自分が数学を好きだからこそなのですが、統計から入る方にも算数から入る方にも、最終的には、「数学ってこんなに美しいんですよ!」ということを伝えたいと考えています。
--子どもに教えることもありますか?
子どものための講座ではないのですが、小中高の学生の方が受講することはありますよ。
受験が近づくと受験数学にシフトしていくので、受験がまだ遠い時期に習い事として、どんどん先に進んで勉強させたいという声もあります。
僕は小学生から大人まで幅広く個別指導をしていますが、社内では珍しい方ですね。
--なぜ大人がメインなのでしょうか?
日本は数学の成績が良いと言われています。しかし、経済などの実学的なところでは、諸外国のほうが強いイメージがある人も多いと思います。
三角関数がノイズキャンセリングで使われていることや金利のような現実の物事を、学校で結び付けて習うことが少ないからです。
学校教育にメスを入れようとしても、大学入試で求められるものの形が変わらない限り、受験数学が第一になる現実は変わらないでしょう。
だから現状だと、大人になって学び直すことに意味があると思っています。
ある程度周りのことが分かって、「そんなところに使われているんだ」と目を開かれたり、キャリアを考える中でいわゆるリスキリングで数学に立ち戻ってきたり。
うちはそこにも大きく力を入れている、そういう意味で「大人の教室」なんですね。
--アートの活動について教えてください。
パソコン上でデザインし、デザインナイフで細かな裁断をして、アクリル板で挟んで仕上げます。
だまし絵を取り入れることも、素数など数学を使ったデザインにすることもあります。作品の写真を撮ると僕のインスタグラムに飛ぶ、QRコードを埋め込んだ作品もあります。
0.1mmレベルの切り絵はレーザー加工でもできない細かさで、制作にかかる時間は数週間から2~3か月くらいです。数学関連だけで60個ほどの作品があり、作品を販売するほかに、解説付きの作品集も出版されています。
本業の和からでも、「数学×アート」をテーマにした講座をしていますよ。僕だからこそできる講座です。
統計学を教えるためエクセルを使っている最中、「エクセルで絵は描けないの?」と聞かれたのがきっかけでした。その場で描いて見せたところ、好評を得たのです。
それ以来ネットにブログを書いたりしているうちに出版社からお声がけをいただき、エクセルでアート作品を描く本も出すことができました。
--和からさんではAIに関する講座も展開されていますが、ご自身はAIを使いますか?
岡本さんの著書『切り絵アートで魅せる現代数学の世界』
アイディアを出したり、作成した内容を要約したりするのには利用することもあります。
ただ、数学そのものをAIに頼るのはまだ難しいと感じます。かなり厳密に定義して説明しないと、読み違いで誤った答えを出してくるのです。特に数学の初学者がAIに頼って学習を進めると、根底から誤った認識で進んでしまうケースがあるので利用には注意が必要だと思っています(そのために僕ら数学講師がいるようなものです)。
また、ブログをAIに書かせてみようとしたのですが、「自分だったらこんな解説はしないなぁ」と思うものが多かった印象です。数学をする人はアーティスト気質の人が多いので、解説にもこだわりが少し強いのかもしれません。
--今後はどんな活動をしたいですか?
ずっと進めている大人向け教材作成のプロジェクトが、算数から始まって、今、大学数学までたどり着きました。これを完了まで導きたいです。
大学数学は、AIや機械学習を利用するエンジニア関係の方やゲーム制作を仕事としている方にも需要があると感じています。
それに、大学数学には「生涯の間には理解してみたいキラキラした理論」がたくさんあり、知りたいという需要も実際に多いです。また、大学数学を通して、真に美しい数学の世界を、もっといろんな方に感じていただきたいなという思いもあります。
アートでも数学を絡め、美しさをもっといろいろな人に体験していただきたいと思っています。
僕にしかできない数学×アートの道を、このまま続けていきたいですね。
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