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「クールジャパン」より「ザ・日本」? 本当に伝わる日本文化とは
ジェイ・エフ・コネクション 川鍋 伸太朗 - MOVの100人インタビュー
--まずは簡単な自己紹介をお願いします。
川鍋伸太朗(かわなべ・しんたろう)です。「日本とフランスの架け橋」をコンセプトに、両国の企業の相互進出を支援する、株式会社ジェイ・エフ・コネクションを設立・運営しています。
私立学校の出身で、小学校から高校まで、フランス語に触れる機会がありました。それを活かして、大学のときに2年間、フランス留学に行っています。そのとき、アルバイトでカンヌのコンベンションセンターに入れていただいて、日本企業のイベント開催を手伝う仕事に恵まれたのです。
大学を卒業後、フランスに本社がある海外見本市の企業の日本支社に入社し、3年間勤めた後、2007年に会社を設立しました。
--起業後の思いや変遷を教えてください。
フランス留学時代のお写真①
フランスに行って、日本のことが大好きな人が多い割には、ゲーム、アニメ以外の日本のことが全然知られていないことに、悔しい思いをしました。
伝統工芸や地方産業についても伝えたいと思い、最初の事業はフランスでコラボレーションイベントをしながら販路開拓をすることでした。
でも、伝統工芸の価値を外国に伝えるのは難しいことが分かってきました。大多数の人は、10万円の漆塗り製品を見て、なぜその価格なのか分からないのです。
そこで一時期は、「カワイイ」を基調にしたスマホアクセサリーなどを、大ロットで仕入れて薄利多売する事業をしていたこともあります。
今は結局、イベント系に落ち着いています。
2020年(実開催は2021年)の東京オリンピック開催が決まったとき、地方自治体に観光促進の資金が交付されました。しかし、自治体は何をしていいか分かりません。そこで2017、18年頃は、岩手県や石川県と組んで、フランスでの誘致イベントを行っていました。
また、日本のアーティストがルーブル美術館を使って個展をするというような活動も支援しています。
その中で、横浜フランス映画祭の主催者から、運営事務局を担うお話をいただき、2022年から日本のものをフランスに伝える活動の傍ら、日本でフランスのものを伝える活動も始まったのです。
今、日本のものをフランスに伝える活動と、フランスのものを日本に伝える活動は、ほぼ同じくらいの割合です。
フランスに行くのは3か月に1回くらいですね。今度行くのはカンヌ映画祭の会期に合わせて1か月半くらい。現地では費用節約と「住んでいる感」を得るため、Airbnbを利用しています。
--フランス語はどうやって上達しましたか?
フランス留学時代のお写真②
留学したとき、所属していた大学と提携していた関係で、ブルゴーニュ大学に附属する外国人向け語学学校に行く必要がありました。でも全然面白くないし、いつまで経ってもフランス人と会えません。
そこで、語学学校を辞めてしまって(本当は辞めてはいけないのですが)、テニスのサークルに参加して、大学の中に入り込んで行きました。おかげでぐっと語学力が伸びましたね。
でも本当に伸びたのはやはり、就職してからです。ずっとフランス人と仕事をしているのもありますが、仕事は言葉だけではないからですね。
好きな人と日常会話をするだけでは済まず、上の人がガンガン言ってくるのに対応しなければいけなかったり、相手の考えていることを予測したりして、経験から言語が伸びていきました。
--フランスと日本を行き来していて、感じることは何ですか?
日本人はPRが下手だということです。
日本は治安だったり衛生面だったりでクオリティが高いですよね。地下鉄も1分間隔で来るし、お客様対応のおもてなし文化も、改めてすごいと感じます。
最近では、フランスで活躍する日本人シェフも増えています。格の高いレストランで働いていたシェフが独立する際、引き連れて行くのは大体日本人シェフです。その日本人シェフが2番店として独立したりしていて、ミシュランの三ツ星を取ったりもしています。
それだけすごいことが起きていて、宝の山を持っているのに、日本人は自分たちのものがすごいとは言いません。「もし良かったら来てください」「私なんか」「つまらないものですが」という調子です。
しかし外国人は「言わないと何も通じない」という文化なので、その中では「僕だからできたのです」くらいに言っても良いと思うんです。
だから僕たちがパリでイベントをするときは、「盛り」ます。これだけすごいのだと伝えます。その感覚はまだまだ、国内の企業に伝えきれていないところです。
また、日本人はクールジャパンを懸命に伝えようとしますが、実は外国の人には「フジヤマ・ゲイシャ」をはじめとした「ザ・日本」のもののほうが響くこともあります。
新しいものを伝えることも大切ですが、日本に昔からあるものをベースに置いておくことも、海外に日本の良さを伝えるために大切なことだと感じますね。
--今後、どのようなことをしたいですか?
日本は無形の精神的なところにすばらしさが多いと思うので、そうした文化を伝えていきたいです。
たとえばおもてなしの文化は、フランスにありません。フランスではお客様と提供者は対等です。
もちろんカスタマーハラスメントなどもあるので、バランスは大切ですね。それでも日本のサービス精神は誇って良いものだと思います。
無形のものを伝えるのは難しいです。たとえばインバウンドを対象にしたおもてなし検定を作って、体験込みで提供するなども考えていました。コロナ禍でとん挫してしまったのですけれど、そのようなことをしたいですね。
アニメやゲームが日本の代表的なものとして知られてきたのは、ここ30年くらいのことです。30年あれば、国のイメージは変えられるということ。小さなところから、新しい形での日本らしさを伝えていければ良いなと思います。
それから、フランスで活躍する日本人シェフを日本に連れてくるような、「逆輸入」もやってみたいですね。
--お子さんには将来どうなってほしいですか?
フランス留学時代のお写真③
僕の子はまだ小学生ですが、子どもたちが大きくなったときに、日本はすごいんだと思いながら生きていけるようになってほしいですね。
フランスに限らず海外に行ってほしい気持ちはあります。それも、できれば10代半ばくらいで経験してほしいです。言葉があまりできない状態で行って、困って、頑張って話し、興味を持つ。
外から日本を見て、気付きを得る。その経験は早ければ早いほど良いと思っています。僕は20歳になってからフランスに住んだのが初めてで、少しもったいなかったと思っているんです。
--日本でフランス人と話せる場所はありますか?
神楽坂には日仏学院があるので、フランス人が多いですよ。観光ガイドにも載っていて、インバウンド客も来ます。
ときどきフランス語ができる人と連れ立って行って、その場で話しかけてフランス語で話をします。裏道の飲食店がおすすめです。
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