announcements interviews MOV
Channel
post small_talk

番組に求めたい ワクワクドキドキ感
田中徹ディレクターが見つめる メディアのこれから - MOVの100人インタビュー

tanakasan_thumb_25_100.jpg

--まずは簡単な自己紹介をお願いします。

田中徹(たなか・とおる)です。株式会社テレビマンユニオンという会社で働いています。もともとは「少女に何が起こったか」と言ったTVドラマや映画のフリーの助監督をしていて、知り合いを通じてテレビマンユニオンに入りました。

--テレビマンユニオンは「世界ウルルン滞在記」や「世界ふしぎ発見」「サラメシ」などを制作する老舗のテレビ制作会社ですね。

会社が創立したのが1970年。TBSのスタッフが立ち上げた制作会社で当時は斬新だったのか、ニュースにも取り上げられました。もう55年前のことですが、その年に始めたレギュラー番組は今も放送を続けていますよ。

--本当ですか。その番組タイトルは・・

「遠くへ行きたい」です。日曜の朝7時から日本テレビで今も放送しています。何本か演出しましたが、僕自身はどちらかというと単発の特番企画を通していくタイプです。

--例えば、どんな特番を作りましたか。

二年に一度オーストラリアで開催される世界一過酷なソーラーカーレース、「ワールド・ソーラー・チャレンジ」をテーマに、テレビ朝日やBSテレ東の開局記念番組として八年間に四回、企画を提案して実現させてきました。

他にミッドウエイ環礁に生息するコアホウドリの生態を追った「神々の詩」や、映画「スターウオーズ」のメインテーマ曲誕生秘話をルーカスのインタビューで掘り起こした「そして音楽が始まる」。今も深夜に流れているNHK・BSの「魂のたき火」など、いろんなジャンルの番組を手掛けてきました。

かつて三時間の正月番組だった「ネイチャリングスペシャル」では世界最強オオスズメバチの生態を追っかけたり、北アルプスの山岳レスキュー密着取材や男女群島などの無人島探検。

他にはアメリカ映画「ツイスター」のモデルになったオクラホマ大学名誉教授だった佐々木嘉和さんを取り上げ、現地放送局を巻き込んでトルネードを追跡したり、9.11の同時多発テロの時はフロレリダで大型アリゲーターの捕獲を取材中でした。

携帯を手にしたアリゲーター・トラッパーが「今、NYで戦争?嘘だろう!」と叫び、アリゲーターを紐で木につなぎ、貿易センタービルの倒壊を一緒に生中継で見ました。

仲間からは「僻地極地の徹ちゃん」と揶揄され、会社のロケ保険担当者を困らせたこともしばしばありました。

--なかなかユニークなキャリアですね。テレビマンユニオンは他の会社と違った経営スタイルを持っているとのことですが・・

tanakasan_3_25_100.gif

二年に一度、130人あまりのメンバーが選挙で代表取締役を選びます。勿論、他に事務職や総合職、契約社員はいます。自立した会社として他の企業から干渉されないようにメンバー制を設けていて、メンバーは株主となって株の大半を保有しています。

ただし、もし会社に大きな負債が起きると、経営者でもあるメンバーは無限責任をとる立場に。社員と違って退職金はなく、七十歳定年まで出来高勝負の熾烈な闘いが個々のメンバーで繰り広げられています。

--"熾烈な闘い"を繰り広げるメンバー制には興味を抱きますが、テレビの番組企画はどのように作るのですか?

例えば飲み仲間とブレインストーミングをしながら、今の時代にどんな企画が必要なのか、どういう企画が視聴者に響くのか、キーワードを探りながらワクワクドキドキするような内容を選んでは詰めていきます。

企画内容をリサーチする場合、ネットで調べる人が今や大半ですが、僕はどちらかと言えばアナログ派。勿論、ネットも見ますが、まずは国会図書館にこもります。

関心のある分野の専門書や専門雑誌を洗い出しながら、読売や朝日などの新聞記事のキーワード検索を開始します。数日かけて調べたいネタや人物が具体的に見えたところで、雑誌を専門とする図書館が世田谷にあり、そう言った専門の図書館にも通って必要な情報を洗い出していきます。

--世情を読んで"これは是非企画を"提案されることはありますか。

ロシアによるウクライナ侵攻で膨大な難民生まれた時、日本人として、またメデイアに携わる者として何かできないか。色々考えて提案したのが "緒方貞子さんの偉業"でした。

--緒方貞子さんと言えば"世界で最も知名度の高い日本人"と言われる方ですね。

緒方さんが国連難民高等弁務官に就任したのは六十代に入ってから。ユーゴスラビア紛争で多くの難民が生まれた時で、彼女はアメリカやロシアをはじめ、多くの列強の大統領と直談判し打開策を練りました。様々な問題に具体的にアグレッシブに挑む彼女の姿勢は、今、世界の政治家に最も求められていると思います。

--緒方さんが偉業を果たす強いモチベーションとなった原点は何だったと思いますか。

緒方さんは既に亡くなっていますが、実はアフリカの難民キャンプにもう一人のサダコさんが生きています。緒方さんを慕って「サダコ」と名付けられた赤ちゃんです。難民の盾として軍の幹部に向かって身体を張る緒方さん。その尊いこころざしの原点は、実は彼女が学生時代に味わった「満州事変」への後悔の念でした。

日本の大陸侵攻で多くの犠牲者を生んでしまうきっかけとなったのが満州事変でした。

今年は戦後80年です。とかく原爆など日本人の戦争被害を取り上げたニュースや報道は多いですが、日本は明らかに戦争犯罪国、それを伝えるメデイアは少ないです。

日本人は何故、戦争を防げなかったのか。緒方さんはそれを徹底的に分析しそこから得た知恵から、国連難民高等弁務官としての強い責務を突き詰めていきました。

詳しくは、緒方さんを取り上げたその番組が、今年6月21日の「世界難民の日」に放送されます。「先人たちの底力 知恵泉 "緒方貞子前篇・後篇"」。是非、ご覧ください。

--趣味をたしなむ時間とかはありますか?

陶芸です。焼き物の歴史を紐解く展覧会によく行きますが、必ず取り上げられるのが、中国で流行った"唐三彩"という焼き物です。

2024年秋の「日本陶芸倶楽部アマチュア作品展」では、唐三彩をいま風にアレンジした龍の作品「燃えよドラゴン三銃士 悪い奴らをやっつけろ!」を出品し、183点の中から最優秀賞を取りました。

tanakasan_5_25_100.jpg

やはりテレビマンなのか、白黒TVがカラーTVに変わった時に誰もがブラウン管にかじりついたように、日本では古墳時代、焼き物もグレーや茶色の地味なものが多かった時に、鮮やかな緑や青、褐色をおり混ぜた"唐三彩"は、シルクロード周辺の多くの豪族を虜にしました。

時代は変わってもワクワクドキドキしたものに、人は心を開く。人を釘付けさせるものは何か。番組も焼き物作りも追い求めて行きたいですね。

--MOVはどのように利用していますか?

MOVができた時からの会員で、もう11年になります。

企画書を書いたり本を読んだり、番組の編集もしたりと、いろいろと利用させていただいています。

僕にとって美味しいコーヒーを片手にイメージを膨らませられるのがMOV。そしてMOVの近くでよく立ち寄るのが川本喜八郎の人形ギャラリーです。彼の精魂込めた作品を見ると、創作意欲がかりたてられます。

そして特に癒やされるのが、華麗に光がうつろう8階や9階、11階から見た窓辺の景色です。

tanakasan_4_25_100.jpg

今、東京で最も喧騒の場と言われる渋谷を俯瞰で見ながら、羽田に向かって飛来する飛行機を見上げる。MOVやその周辺はバラエティ溢れ、とても刺激的で素敵な空間だと思っています。

MOVの100人インタビューに挑戦中! ↓↓↓