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ハワイ、ニューヨーク、そして渋谷へ
Bunkamura Gallery 渡貫 彩さんのアートでつなぐ人生 - MOVの100人インタビュー

--まずは簡単な自己紹介をお願いします。
Bunkamura Galleryマネージャーの渡貫彩(わたぬき・あや)です。
東急百貨店本店が位置する土地開発と大規模改修に伴い、Bunkamuraは一部休館になってます。
その中でBunkamuraの施設内にあったギャラリーはヒカリエに移転し営業を継続、事務所をMOV内に置かせていただいている形です。
仕事内容は展示の企画提案、作家さんへのお声がけ、DM作成、搬入搬出などで、力仕事も多いです。
--Bunkamura Galleryではどのような展示をしていますか?

おおよそ2週間程の企画展を開催していて、展示入替に4日間のお休みをいただいてます。
年間で約20本の企画展の開催です。移転前は約60本開催していたので、だいぶ減りました。
企画内容は1年くらい前には決まっているのが理想で、そこから作家さんにお願いして、新たな作品を作っていただくこともあります。
いわゆるギャラリーと言われるものはそれぞれ個性を持っていますが、Bunkamura Galleryの場合は、ジャンルに偏りがないことが一つの個性です。
今はアングラ演劇のポスターをテーマにした展示を行っていますし、水彩画や日本画をテーマにした企画も開催しています。
というのも、東急沿線沿いに住む若い年齢層の方や今までアートに興味がなかった方が、家にアートを飾ることの窓口になることが目的のギャラリーだからです。
新進気鋭の作家さんを紹介したり、お家での時間が少し楽しくなるようなアートを紹介したりと、そのときどきで、我々が本当に良いと思ったものを選び、展開しています。
--なぜギャラリーの仕事についたのですか?

私自身も演劇や美術が好きで、育った家庭もアートが多い環境でした。
語学留学に行きたいと思ったとき、親が出してきた条件が、アジア人への差別が強いところには行かないことと、子どもの頃病気がちだったので、あたたかいところに行くこと。それで、よく知らないながら、ハワイに行くことになりました。
語学学校の校長先生の勧めでカレッジに入り、さらに4年制大学編入を勧められて入学したのが、ハワイ州立大学です。そのときにアートマネジメントが学べるところに行きたいと考えて、写真学部でフィルムを学びながら、空間デザインなどを学ぶ道を選んだのです。
ちょうどその頃、母もアメリカの大学に留学していました。家庭の事情で高卒だったのですが、子育てが落ち着いて、「女は50代からよ」と言って、仕事を辞め、改めて学び直すことにしたようです。
母はニューヨークに住んでいたので、私がニューヨークの美術館やギャラリーでインターンをするとき、家賃が高いのでソファで寝泊まりさせてくれと頼んで転がり込みました。
その代わり家事はすべて行う条件だったので、そのときは私がお母さんみたいな、逆転の生活でしたね。結局、アメリカには10年近くいて、20代のほとんどを過ごしました。
その後、一時帰国をして、就職したのがBunkamuraです。インターンではなくきちんと雇われたキャリアを得て、また海外に出ようと思っていたのですが、そのときにコロナ禍が始まったのです。
コロナ禍のうちに行きたかった香港の情勢も変わったので、これもご縁だと受け入れて今に至っています。
--今後、やりたいことはありますか?
MFA(美術学修士号)の取得をいつかの楽しみに取っておいているような感覚があります。
でも、同じ海外でもアメリカはおなかいっぱいですし、ヨーロッパでしょうか。行き先も含めて、今はまだ様子見の段階です。
--美術館とギャラリーの違いは何ですか?

一般論ですが、美術館は一種の研究発表の場です。学芸員さんたちが、歴史的な重要性をかんがみて、作品の背景や作家の人生を研究し、その研究成果を分かりやすく見えるように展示しています。
一方、ギャラリーの最大の特徴は、購入できるということです。今を輝く時代のものも含めて、自分のものにできるという視点で見られるのが、ギャラリーの最大の強みです。
だから我々はよく、「好きな作品はどれですか?」に加えて、「おうちに飾るならどれですか?」と尋ねます。
好きな作品と家に飾りたい作品は、けっこう違うものです。それに、実際には買わなくても、家に置くことを考えると真剣に見ますよね。そういう遊び方もできるのがギャラリーなんです。
--アートはどう鑑賞したらいいですか?
見方は人それぞれで良いと思います。
原画にこだわる人もいれば、版画やポスターが良いと考える人もいますし、良いと思うジャンル、時代も人それぞれです。アートについて勉強をするかどうかも、そのアートを「分かりたい」のか「感じたい」のかによって変わってきます。
飾るにしても、インスピレーションを得たい人もいれば、ただなごむという人もいて、どちらでも良いのです。アートの世界に正解はありません。
日本ではまだ、家に絵を飾る文化が根付いていないと思います。日本家屋での絵といえば、床の間に飾る掛け軸でしたり、チラシや書物の形で絵を見て来た日本の文化や、窓が多く、絵を飾れるスペースの少ない家のつくりのような理由もあります。
でも、何より大きいのは、自分の美意識への自信のなさだと感じています。「これ、有名ですか?」と聞く方がとても多いですね。有名であるということで、自分の判断に保証がほしいのだと思います。
頭で考えずに、心で良いと感じることに自信を持てば、もっと楽しくなるのになあと、少し残念に思います。おそらく、アート以外のところでも、そうなっているでしょう。
そんな世の中で、新しい世界の扉を開けるための練習としても、アートは有効です。
こういう世界もあるのかと出会い、柔軟性を獲得して豊かになれるのも、アートの存在意義だと思います。
--Bunkamura Galleryマネージャーとして、最後に一言お願いします。

ギャラリー側からは、何がその人にヒットするかは分かりません。足を運んでたくさんのオプションが目に入ると、最初に気になった作品とは別のものに興味を持つかもしれません。
そのためにもまずは、美術館やギャラリーに足を運んで、自分の中の世界の扉を増やしてもらいたいと思います。
アートは私が語りきれるものではありません。それでも我々がギャラリーをやっているのは、いろいろな楽しみ方があると伝えたい、家に飾る楽しみを味わう窓口になりたいという思いからです。
ぜひBunkamura Galleryにも足を向けてください。
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