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2万個食べても、まだ終わらない
いなり王子・坂梨カズが語る、いなり寿司愛と業界の未来 - MOVの100人インタビュー

--まずは簡単な自己紹介をお願いします。
坂梨カズ(さかなし・かず)、または「いなり王子」です。
化粧品企画会社を経営しています。
業務は、化粧品の工場を持っていないブランドさんに工場を紹介することと、マーケティング全般です。何をどのタイミングで作ってどんな方法で売るか、トータルでご相談に乗ります。
--「いなり王子」とは?
いなり寿司を食べ歩いて紹介し、市場の活性化をする、いわばいなり寿司の伝道師のような活動です。
いなり寿司オタクは20年以上続けていますが、「いなり王子」の名前は、2016年に「マツコの知らない世界」に出演した際、スタッフさんに付けていただきました。
というのも、この活動はほとんど無償で行っています。講座開催や、説明役の際にはお金をいただきますが、いなり寿司店のほうからいただくことはありません。むしろ必ず購入して食べてみて、自分が良いと思ったところだけを紹介しています。それで王子と言われたのです。
--活動について、詳しく教えてください。

月に1度くらいは依頼に応じて食べ歩いたり、店舗を紹介したりしています。また、「いなり寿司マイスター講座」を開催して歴史や作り方を教えたり、講演をしたりもします。
いなり寿司について紹介しようとしても、良いお店、協力してくれるお店を探す方法がありません。そこでメディアから「関東で、こういう特徴の、取材に協力的なところはありませんか」というように、私のところに連絡が来るのです。
--いなり寿司のどのような点が魅力ですか?
2万個を超える数のいなり寿司を食べてきましたが、まだまだ終わりはありません。
いなり寿司は寿司屋でも、コンビニやスーパーでも扱っていますし、専門店もあります。お揚げも店ごとに違いますし、スーパーなどは店舗ごとにパートさんが作っているので、個店の味もあるんですよ。
嫌いな人が少なく、系統がハッキリ分かれておらず、寿司ほど厳しい師弟関係の縛りがないのも魅力です。メディアで紹介しやすく、紹介することで業界が活性化されて、店舗も増えて行きます。
その意味で、私がメディアとのつながりを持ち、定期的に紹介できるようになったことは、業界の役に立っていると思えて嬉しいです。
--いなり寿司はいつからあるのですか?
『守貞漫稿』には尾張名古屋の発祥と記載がありますが、私は東京発祥と結論付けました。というのも、東京には明治時代からの老舗がたくさんありますが、名古屋にはないからです。
つまり発祥が確定していない状態なのですが、私が信じている発祥をお話しします。
江戸時代後期、江戸前寿司が流行しました。妻子を置いて江戸に来ている一人暮らしの武士が、仕事終わりにつまむファストフードとして人気だったのです。
ちょうどその頃に飢饉があり、幕府はぜいたくな寿司を禁止しようとしました。そこで、ぜいたくではない寿司として巻き寿司になり、さらに新商品として、おからなどをお揚げで巻いた「信田巻(しのだまき)」が登場します。その派生で、酢飯を包んだものが出てきました。巻き寿司の流れを汲んだ、俵型のいなり寿司の誕生です。
当時、同じようにぜいたくとして禁止されたものに、歌舞伎がありました。職を失った関係者が全国に散らばったのがきっかけで、その中から寿司屋を始め、いなり寿司を関西に伝える人が出てきます。
今の関西では三角形で五目めしが詰まったいなり寿司が一般的です。明治時代にきつねうどんが流行して正方形のお揚げが生まれ、さらに家庭でアレンジされるうちに五目めしになったと思われます。
--いなり寿司は、海外からはどう見られていますか?

日本のアニメや映画にも登場する食材として、広まっています。
アジアではマレーシアでの展開が盛んです。オープンタイプでマヨネーズ系の味が多く、あるお店では10種類以上も扱っていました。外食文化が栄えているアジアでは、ファストフードとしての良さを活かして取り入れられているようです。
ヨーロッパや北米では、豆腐原料のお揚げ、小麦粉製品よりもヘルシーな米ということで、ヘルシーフードとして売れているようです。
日本食らしい繊細な味を楽しみつつ、上に載せるものによって旬を感じることもできるいなり寿司は、輸出食材としても魅力があるものだと思いますね。
--いなり寿司オタクとして、オタクにはどんな性質が必要だと思いますか?

収集癖です。
たとえば私は、コンビニのいなり寿司の歴代のビニールパックを保管しています。並べてみると、「わさびがここで変わったんですよ!」と語れますよね。
そういうことまでやってしまうというのが、オタクですよ。
--オタク的な性質は、他のところでも生きますか?

化粧品の仕事でも、オタク的な方法でいろいろな情報を持っていることは、役に立っています。
今、どのユーチューバーさんが影響力を持っているのか、どんな化粧品を紹介しているのか。リアルタイムに知っていれば、「狙ったユーチューバーさんに紹介してもらえるような化粧品」を作り出すことができます。すると、SNSでバズって、売れるというわけです。
今は、大手企業がデータを集めている間に、トレンドが移り変わってしまいます。時間のかかる調査ではなく、オタク的な情熱で「今」を逃さず捉えられているおかげで、私の会社ではヒットを出し続けていますよ。
--今後やりたいこと、伝えたいことは何ですか?
今伝えているのは、単価を上げるようにしていかなければ、飲食業界の皆が苦しくなるよということです。
彩りや種類を増やしたり、大きな1つではなく小ぶりの複数個で売ることでターゲットを広げたりして、1個当たりの単価を上げるように、業界のお店に伝えています。
武士のファストフードとして、おにぎりサイズから始まったいなり寿司ですが、2018年頃の平均の重さは45グラム、今は30グラムです。そうして1個ずつのサイズを小さくすることで、食が細い人も手に取りやすいようになりました。
また、コロナ以来、利益率の低いコンビニでは嗜好品のいなり寿司の取り扱いが減り、代わりに専門店が元気になりました。
今後、客単価も、シンプルな1皿・1パックで300円ではなく、彩りの良いいろいろな味の8個入りで1400円のように上げていくようになり、食べ歩きを続けられる業界であり続けてほしいと思います。
--MOVはどのように活用していますか?
MOVはオフィスとして利用しています。仕事の場を提供してくれるだけでなく、その道のプロを引き合わせてくれたりしますので、そういった相談もしながら活用しています!
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