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個を消すデザイン、個を活かすアート
二つの顔を持つコラージュ作家の現在地 camouCollage 渡部 絵里子 - MOVの100人インタビュー

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--まずは簡単な自己紹介をお願いします。

渡部絵里子(わたなべ・えりこ)です。

20年以上にわたり、雑誌や広告、ロゴ・タイポグラフィなどを手がけるグラフィック・デザイナーとして活動してきました。そして2018年からは、コラージュ・アーティストとしても創作活動を行っています。

--ご経歴を教えてください。

桑沢デザイン研究所で3年間学び、卒業後はデザイン事務所に入社しました。4年間勤めた後に独立し、フリーランスのグラフィック・デザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。

デザインの仕事は、第一にクライアントのご要望に応えることが大切です。自分の個性は出さず、相手の意図をくみ取り、それを形にしていくことが求められます。だからどんなジャンルの仕事でも取り組みました。

車の免許を持っていなかったのに車雑誌のディレクションを10年近く担当したり、ファッション、政治、スポーツ、料理、カルチャー、漫画など多岐にわたる案件に対応しました。

仕事は本当に大好きで、まさにライフワークでした。完成したものをクライアントに喜んでもらえたときは、何より嬉しく、達成感も大きかったです。

ただ、2010年代前半に結婚し、立て続けに二人の子どもを出産してから、生活ががらりと変わりました。産休や育休がないフリーランスという立場で、育児と仕事を並行してこなす日々。心も体も余裕がなくなり、次第にデザインの仕事に対して疲れや迷いを感じるようになりました。自分自身が見えなくなっていきました。

--そこからコラージュに向かったきっかけは?

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原点に立ち返りたいと思ったんです。学生時代に好きだった「コラージュ」をもう一度やってみようと。まずは子どもの写真を使ってコラージュ作品を作ってみました。すると、それがすごく楽しくて、忘れていた自分の感覚が蘇るような心が回復していく手応えを感じました。

その後は、昔から好きだったアンティークやヴィンテージの素材を取り入れた作品を制作し、Instagramにアップするようになりました。すると、思いがけず多くの人に「素敵」と言ってもらえて。

そこで2018年に、アートブランド「camouCollage(カモコラージュ)」を立ち上げました。

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コンセプトは「奇妙なファンタジーへ」。最初は小さなスタートでしたが、今ではエディション絵画の制作を中心に、グッズ展開や企業、美術館とのコラボレーションも手がけています。ギャラリーをはじめ、デパートや書店など様々な場所でPOP UPや展示も行っています

渋谷のスクランブルスクエア、ヒカリエ、さらには2020年にはクリエイティブスペースaiiiimaさんでも展示を開催させていただきました。

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--最近手がけられている、「じゃぽらーじゅ」についても教えてください。

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じゃぽらーじゅ」は2024年に新たに立ち上げたアートブランドで、日本の今昔を融合したものです。

浮世絵や富士山、神社などの伝統的なモチーフや、寿司やスイーツ、都市のネオンサインなど現代的でポップな要素をコラージュし、「にっぽん今昔奇想郷」という、時空を超えたコンセプトとして発信しています。

ありがたいことに多くの反響をいただき、現在はNHKと東京国立博物館が主催する「イマーシブシアター 新ジャポニズム」にて、Tシャツや手拭いなどのグッズを制作させていただいています。

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しかも、今年のNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の発表とも時期が重なり、まさに「これだ!」というリンク感がありました。江戸時代の出版文化を支えたプロデューサー、蔦屋重三郎を描く作品で、じゃぽらーじゅとの世界観の親和性が高く、一人でガッツポーズしてしまいました(笑)。

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--camouCollageとじゃぽらーじゅ、それぞれの違いは?

共通点は「売れるものを作る」という点。自己満足ではなく、誰かに喜ばれる作品を作ることが大前提です。

ただ、モチーフの捉え方は大きく違います。camouCollageでは西洋絵画が中心。私自身は西洋の宗教的背景を深く理解しているわけではないので、美しい部位があれば、マリア様でもキリスト様でも、躊躇なく切ってしまう(笑)。教信者の方からはお叱りを受けるかもしれません。

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一方で、じゃぽらーじゅではそうはいきません。自国の文化を扱うという責任があり、日本人として作品の説明も必要です。テーマ毎に時代背景を学び、意味を理解しながら作っています。

--作品の着想や素材はどこから?

最近ではNetflixで観た「サンクチュアリ─聖域─」や「忍びの家」に刺激を受け、相撲や忍者をテーマにした作品を作りました。そこにキャラクター的な猫を組み合わせたり、揺れるお腹から「プリン」を発想したりと、少しふざけた要素も加えながらオリジナリティを大事にしています。

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--じゃぽらーじゅを通じて伝えたいことは?

江戸時代の浮世絵も、現代の漫画や雑誌と同じように大衆文化から生まれました。当時は高級な美術品ではなく、むしろ陶器の梱包材として使われるほどのものでした。

でも、その大胆な構図や平面的な表現がヨーロッパで評価され、「ジャポニズム」として日本文化が世界に広まりました。

今の日本では、そうした美しい文化が少しずつ失われています。だからこそ、今と昔を融合させたコラージュで、日本人にも「こんな文化があったんだ」とハッとするきっかけになれたらと思っています。

--プライベートはどんなふうに過ごされていますか?

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映画が好きでよく観ていますし、日本の漫画も好きです。最近夫が「ワンピース」を全巻大人買いして、私も夜な夜な読んでいます。あとは「進撃の巨人」も名作だと思っています。

最近は横浜の青葉台に引っ越しました。自然もあって、都内にも出やすい、ちょうどいいバランスの場所です。とはいえ、私は世田谷出身で、幼少期によく行っていた渋谷は自分の"磁場"と合っているように感じます。それもあり、MOVを利用している理由の一つですね。

--これからの展望について教えてください。

これからもバランスを大切にしながら、デザインとコラージュの両方を続けていきたいと思っています。

じゃぽらーじゅの活動を通して、日本文化を伝えることが自分の役割だと感じるようになりました。一方で、クライアントの要望に応えて形にするデザインの仕事も、やはり私にとって大切なものです。どちらも自分らしく、楽しさと喜びを感じながら進んでいけたらと思います。

--MOVはどのように活用していますか?

作品づくりやデザイン業務に利用しています。実はMOVに入会した2017年に、ちょうどコラージュ作品を作り始めたんです。だから私にとってMOVは「クリエイティブラウンジ」という名前通り、すごく創作意欲を刺激してくれる場所。大切な起点となる空間です。

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