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これからは好きな創作を楽しみたい。
AI時代から「逃げ切る」フリーのシナリオライター 横谷 昌宏 - MOVの100人インタビュー

--まずは簡単な自己紹介をお願いします。
横谷昌宏(よこたに・まさひろ)です。30年近く、フリーランスでアニメを中心としたシナリオライターをしています。
工学系の大学を卒業して、コンピューター系の商社にソフトウエアのアプリケーションエンジニアとして入社しました。営業の方と一緒に客先に行って、デモンストレーションをしたり技術的サポートをする仕事です。
30歳を超えたとき、会社員であり続けることに疑問が出てきて、シナリオ学校に行って会社を辞め、フリーランスになりました。
--90年代当時、フリーランスをめぐる空気感や情勢はどうでしたか?
僕が大学生の頃はバブル期で、フリーターという言葉が今のようなネガティブな意味ではなく、好きなことをして生きる自由人のようなイメージでした。
就職した頃にはバブルも末期でしたが、それでも会社員の安定かフリーターで自由に生きるか、二極化していたような印象がありますね。いったん安定した会社に入ったからには定年まで勤める雰囲気はありました。
大学まで出身の大阪で過ごし、なんとなく東京に行きたいと思っていたら東京での就職が決まりました。上京しさえすれば辞めても良いと思っていたので、正直会社では浮いていたと思います。
今ではあり得ない発言ですが、「新入社員なのになぜ残業しないのか」と言われましたし、飲み会もほとんど参加しませんでしたね。
そんな状況でも、安定した会社からフリーランスへというのは親からも反対され、後で聞いたところでは同僚の間でも成功するはずはないと言われていたそうです。

幸運なことに、フリーランスになって半年もしない1996年に「怪盗セイント・テール」というテレビアニメの中の1話でデビューすることができました。しかし、その後が大変で、3、4年くらいは食べられるほどにはならず、共働きの配偶者の収入で食べている状態でした。
当時はまだフリーランスを保護するような法律もなかったので、今以上にフリーランスの地位は低く、強くは出られないことも多かったですよ。
やっと食べられるようになるまで5年、安定するまでは10年くらいかかりました。
デビュー当時は、SNSどころかインターネットもまだ一般的ではありませんでしたが、Niftyにライターの集まる掲示板があって、プロライターの管理人が映像企画等の募集情報を共有してくれることがありました。デビュー作も含め初期の仕事は、シナリオ学校の恩師、そして、この頃に繋がった先輩ライターのみなさんのおかげです。
--SNSやAIが台頭する現状をどう見ていますか?

ライターという立場から言えば、プロになれるチャンスが発生する機会は大きく増えた反面、その中で成功をつかむのは逆に難しくなったのかなと思います。
まずSNSや「小説家になろう」など、作品を発表できる場が増えて、企業の目に留まる機会は多くなりました。一方で、発表される母数も膨大になったので、その中で目立つのは、作品そのものとはまた別の戦略になっています。作品でプロになりたいのに作品で評価されないのでは、本末転倒ですよね。
また、お金を稼ぐにはAIをはじめとするツールを使えば速く安く、多くをつくれるかもしれませんし、視聴者側は誰がつくったものでも面白ければ良いかもしれません。
でもAIもゼロからつくっているわけではなく、その素材になるようなものが必要ですよね。すると、AIにまねされるようなひと握りのトップレベルの人だけが残っていきます。
以前ならそこまでトップレベルになれなくても生き残れたものが、トップレベルの人だけを残して他はすべて生き残れないということになってしまうのではないかと思います。
AIのようなツールを使えば、創作脳を使わなくてもお話をつくることはできてしまって、少し手を入れるだけで速く完成させられることもできるでしょう。でもそれは、たとえば野球選手がロボットに野球をやってもらうようなもので、僕にとっては全然楽しくない。
お金ではなく好きだからこそ創作をしたい人にとっては、しんどい環境になっていくのではないかと思いますよ。世の中の流れとして仕方がないのかもしれないけれど、僕自身はそろそろ年齢も年齢ですので、このまま「逃げ切りたい」などと不埒なことを考えたりもしています。
--仕事以外ではどんな活動をしていますか?
コロナ禍を機に打ち合わせなどはリモートが普通になったので、ワーケーションのような形で国内各地に行くようになりました。3月には1週間ほど沖縄に行っていました。いわゆる観光地に行くよりも、知らない普通の町に行くのが好きです。
--これから取り組みたいことは何ですか?

僕の仕事も世の中の流れには逆らえません。アニメの仕事をしているのは変わらなくても、オリジナルではない、原作が存在する仕事が多くなっています。漫画やライトノベルをアニメの30分の尺に合わせて脚本にする仕事です。
その一方で、年金やこれまでの作品の印税で、収入面ではある程度の安定が期待できそうな見込みができてきました。
AIから「逃げ切る」意味でも、これからは好きなように自分の創作をしていきたいなというのが望みですね。文学系同人誌即売会「文学フリマ」に同人誌を出すことや、自主制作映画を撮ることも考えています。もはや趣味の世界です。
MOV市では、「即興シナリオ」を4回くらい出展しています。お客さんからお題をもらい、その場でA4サイズ1枚くらいのショートコントを、15分程度で書くものです。
試しにそのお題をAIに渡してみたら、5秒くらいでそこそこのものが出てきてしまうんですね。それが分かっていて、それでもやるのは、楽しいからです。
AIの台頭の前で僕のすることに意味はなくなっていくかもしれないけれど、結局楽しいからやっている、そういうことをして生きていけたら良いなと思います。
--MOVはどのように利用していますか?

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僕は家ではまったく仕事ができないほうです。MOVに登録したのは2013年、オープンして1年くらいのときでした。
適度なざわつきを求めて、かつ、1か所だけに絞って日常になりすぎないようにと、一時期は数か所のシェアオフィスに同時に登録していましたね。今は、シェアオフィスはMOVだけに絞って、カフェなども活用しながら仕事をしています。
あちこち利用していると、同じシェアオフィスでも完全にビジネスライクで交流がまったくないところもあれば、反対に利用者同士がべったりのところもありました。
MOVは適度に放っておいてもらえる感じがあり、それでいて何かあれば頼れるところもあって、距離感がちょうど良いので長く利用しています。立地が良いわりには費用が安いのもありがたいですね。
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