Channel
異なる視点を行き来する。スタートアップにコミットし続ける「新規事業家」守屋 実 - MOVの100人インタビュー

--まずは簡単な自己紹介をお願いします。
「新規事業家」の守屋実(もりや・みのる)です。これまでの活動を端的に表す数式として、「社内起業17+独立起業23+週末起業15=55歳」と自己紹介をさせてもらっています。
これまでに上場したのは9社。今は株式会社8社の取締役、NPOや一般社団法人の理事などを4団体を兼任させてもらっています。本も何冊か出版していて、最新の『新規事業を必ず生み出す経営』は発刊2年、1冊14850円(税込み)なのですが、お陰様で9刷にまでなりました。
世の中では何事も「1万時間」おこなえばある程度の専門性を獲得すると言われていますよね。僕は19歳で会社経営に関わり、その後株式会社ミスミに入社しました。つまり36年間、「1万日」以上新規事業をやり続けているわけです。
「日」と「時間」では日の方が長いので、いくぶんなりとも専門性を獲得出来ているであろうということで「新規事業家」を名乗っています。「新規事業家」は他に名乗る人がなく、商標登録も取れています。
--どのようにして新規事業家になったのですか?
株式会社ミスミ(現・株式会社ミスミグループ本社)に入社したときから新規事業開発に携わっていました。株式会社ミスミの創業者である田口弘氏が別に設立した、新規事業専門の株式会社エムアウトの創業にも関わっています。ずっとついて行くつもりだった田口氏に独立を促されたのがキッカケで独立することになり、その後、「新規事業家」と名乗るようになりました。
独立後、最初の参画先はラクスル株式会社とケアプロ株式会社でした。創業期の参画だったので出資もさせてもらい、副社長に就かせてもらいました。
創業当初の利益のないスタートアップで生活が賄えるわけもなく、夜なべ仕事で他社のアドバイザーをしていた時期もありましたね。その後、ラクスル株式会社は上場、ケアプロ株式会社は目指していた法改正の実現が出来たので、どちらからも卒業をさせてもらいました。
この創業時にお金を出してコミットするスタイルが、自分としては「創業期に参画するからには創業に必要なお金はみなで出し合うよね」ということなのですが、世間からは「有望なスタートアップに投資する」とも見えるようで、投資してほしいという依頼が入るようになりました。
結果、60社ほどのスタートアップに投資をさせていただいていますが、今でも自分のなかでの設定は、「投資をする」というよりは、「参画をする」という感覚だったりします。
--多数の新規事業を内側から見てきて、共通することは何ですか?

経営というのは、相反する考えをバランスを取りながら両立させることが大事だなぁ、と思っています。
新規事業は10のうち8、9は失敗します。だから失敗しそうだと思ったら、早く諦めた方が良い。確率的には、そうなります。
しかし、その8、9の失敗の道に入り込んでしまったときに、「あそこで間違ったから失敗に傾いてしまったのだ」と気づいたのであれば、戻ってやり直すこともアリだと思います。そしてその間違いが「タイミング」だったとしたら、いったん止めて機を待つのもアリだと思います。
また同時に、そうした冷静な考え方とは相反する「なにがなんでも死んででも諦めずにやり遂げるっ!」という気迫も必要です。「失敗」とは、「今の時点ではうまくいっていない」ということでもあるわけで、だからこそ諦めてはいけないものだったりします。
これらは、それぞれ正しいが、それぞれ相反してもいたりしますよね。「じゃぁ、どうするのか」ということですが、それを考え決断し、前に進んでいくのが経営者の仕事だと思うのです。
--これまでで転機と感じたのはいつですか?

2018年です。4月、5月と2か月連続で、参画していたスタートアップが上場に至りました。
投資ではなく役員としてコミットした会社が2か月連続で上場したという話は聞いたことがなく、「唯一性」を獲得した感じがしました。一種の閾値を超えたような感覚を覚えたのです。
それ以来、自分では到底届かないような大きな成功している人を見ても羨ましがらず、素直におめでとうと思えるようになりました。そういった他人と自分の比較に対する興味がなくなり、本当に純粋に自分自身がやりたいことだけに興味が集中するようになったのです。
もっとも、僕の場合はこうした競合がない状況が気持ちの持ち方に良い影響を与えていますが、悔しさや羨ましさ、負けたくないという思いがバネになる人もいるので、そこは人それぞれですよね。
--プライベートや趣味の活動は何がありますか?
仕事以上に楽しいことは何もありません。だから四六時中働いているとも言えるし、一切働いていないとも言えるんです。
不動産や車には興味がありませんが、その代わり毎年家を買えるくらいの額をスタートアップに投資しているのが、最大の贅沢でもあると考えています。
--将来の展望や不安はどのような点にありますか?

投資や参画をさせてもらったスタートアップ60社のうち、最大、20社くらいが上場する可能性があるなぁ、と思っています。その実現まで、まだまだやることは沢山ありますし、経済的にはかなり恵まれたうえに欲しいものがない人なので、生活をしていくうえでは特に不安はありません。
あるとしたら身体的な老化ですかね。老化についてはひしひしと感じているので、どこかで引退はするかもしれません。引退後は住む場所でも生活でも、妻がしたいようにしてくれれば良いと思っています。
--MOVはどのくらい利用していますか?
コロナ前は時々利用していました。コロナ禍を経て、同じ渋谷区内でも自宅からのアクセスが良い神泉に小さなマンションの1室を得て、MOVの利用は減ってしまいましたね。
朝から晩までオンラインミーティングや講演があることが多く、声を張るので、完全に隔離されたマンションのほうが仕事はしやすいですね。でも、MOVが良い場所であるのは分かっているので、会員は続けていますし、いずれ何らかの方法で利用を再開したい気持ちはあります。
--新規事業に関わる後進へのアドバイスをお願いします。

まず事業を実施する人には、めげるなと伝えたいです。僕の社内起業は「5勝7敗5分」、新規事業家と名乗っているクセして失敗の方が多いのです。
それでも僕に5勝があるのは、全部で17回も挑戦したからですよね。同じ理由で、投資家として事業に投資をしたり、上司として事業の参入を承認する立場の人には、多くの成功を得たいのであればとにかく多く挑戦させることであり、100%の成功を求めてはいけないと伝えたいです。
また、運よく事業がうまくいき、成功の道を歩み始めたときに陥りやすいのが、過剰な自信で全能感に囚われてしまうという病です。アドバイスに耳を傾けなくなるのが初期症状です。
僕のように多くの事業を並行していれば、絶好調の事業と最悪の状況の事業が同時にあるので、天狗になることも、落ち込みすぎることもありません。
でも一つの事業に専念していると、絶好調が続くと天下だと思ってしまい、絶不調が続くと悪夢だと思ってしまいます。そうではなく、調子の良いときも悪いときもあるものだ、ということを忘れないことが大事だと思います。
MOVの100人インタビューに挑戦中! ↓↓↓