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【Live house, Tokyo.】渋谷を凝縮した風景と音を感じるフォト・プロジェクト



写真を介在にしたアートプロジェクトを展開している「東京画」との特別なトークイベント、M:P-30『東京画 meets MOV Special Night』が、12月20日に開催されました。

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スピーカーは、フォトグラファーの大和田 良(おおわだ りょう)さんと、BEAMSが手がけるギャラリーB GALLERYのキュレーター藤木 洋介(ふじき ようすけ)さん。現在進行しているプロジェクト【Live house, Tokyo.】について伺いながら、「渋谷の音」というテーマでトークセッションをしていただきました。



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大和田さん/東京画より


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藤木さん/ビームスサイトより




憧れの場であり、夢敗れる場である
渋谷のライブハウス


大和田良さん(以下、大和田):
渋谷のライブハウスから撮り始めた【Live house, Tokyo.】。最初のきっかけは、藤木さんと話し合う中で生まれたんです。僕が昔、音楽をやっていたということもあって、ライブハウスはすごく親和性の高い場所なんですね。藤木さん自身も音楽との親和性が高くて、そのあたりがこのプロジェクトのきっかけだったように思うんですけど。

藤木洋介さん(以下、藤木):
そうですね。なんかめずらしく大和田さんがすごくしゃべるなって思って聞いていたんですけど。笑

観客:笑

藤木:
大和田さんはもともと、仙台でパンクバンドのドラマーとして、音楽をやっていたんですよね。それで、僕自身は、BEAMSという服屋さんの中にあるギャラリーでやっている企画の中で、ミュージシャンを取り上げた展覧会(浅井健一のショップインショップ「Sexy Stones Records Shop in Shop」など)をしたり、展覧会のトークゲストにミュージシャンを呼んだりしてます。先ほど、大和田さんがおっしゃっていた親和性というのは、このあたりにありますね。

Live house, Tokyo.-1.pngのサムネイル画像

【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)


お互い音楽が好きで、音楽を通じた表現を行っていたという親和性の高さから構想されたプロジェクト【Live house, Tokyo.】は、2014年の夏頃にスタートしました。プロジェクトは現在も進行中で、2017年12月時点で、約40ヶ所のライブハウスを撮影。基本的に"東京近郊のライブハウス"という縛りを設けていて、その中にはもちろん、渋谷も含まれています。


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青ガエルの中から撮られたスクランブル交差点。MOV内に展示されていた所幸則さんの作品。


藤木:
今日は「渋谷の音」というテーマもあって、渋谷について大和田さんにも聞いていけたらいいなと思ってたんですけど。大和田さんが東京(渋谷)にきたのって、いくつぐらいのときですか?

大和田:
18のときだったので、だいたい98年ですね。僕ら写真家にとって、渋谷のビジュアルとしてパッと入ってくるのは、ハチ公前の交差点の風景なんです。で、そこの中でイメージできることが、文化があって、交流している場所があって、あるいは誰も立ち止まらずに情報量の多さだけがどんどん流れていく、ということ。ライブハウスにも、そういうところが、ちょっとあるんですよ。

藤木:
ライブハウスって、地区によって結構違ったりするじゃないですか。渋谷はどうですか?

大和田:
渋谷が一番、その流れが早い感じがするんですよね。僕が19の頃に持っていたイメージで、まずは渋谷の周辺(の地区)からライブをはじめて、最後は渋谷の大きい箱でライブをやるっていうのがありました。憧れの場所でもあり、情報を受け取る場所でもある。自分を発信する場所でもあるし、あるいは、どこかで夢が破れる場所でもあるんですよね。
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【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)



歴史のあるところも、新しいところにも、いろんな物語が詰まっていて、同じように人の影が見える。人の情熱とか思いとか、僕が渋谷に感じる、東京の流れというか、うねりというか。そういうモノとコトが重ね合わさったところにあるのが、ライブハウスなんです。

藤木:
撮影自体は、演奏中は撮れなかったりするので、ミュージシャンたちがリハーサルする前の時間に撮ってるんですが、いま大和田さんからお話しのあった、夢が破れる場所とか、思い出のある場所とか、そういう、残像とか余韻みたいなモノが、撮れたらいいなとはよく話してたんです。基本的に、そこのライブハウスを特徴づけるような場所を、撮るようにしてますよね。

大和田:
やっぱり、そこにあるのは熱量ですよね。痕跡というか。渋谷の街はもちろんですけど、グラフィティとか、ステッカーとか、ダギングも含めて、ライブハウスには、その街の風景がより凝縮されているような感覚がありますね。


残像を残す手法と
写真と音の関係性



Live house, Tokyo.-3.png

【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)


藤木:
このライブハウスの写真は、どういう手法で撮ってるんですか?

大和田:
モノクロのフィルムカメラで撮ってるんですけど、プリントするときに複数枚のネガを重ね合わせてるので、(場所そのものが)重ね合った状態になってるんですね。あるところは、ステージと廊下が重なり合ってたり、あるところは、その中のトイレと控室が重なり合ってたり。そういったところで、よりその場の熱量だったり、オーラみたいなものが、イメージの中で立ち現れていく。そうものを目指して、(一枚の)イメージにしました。

藤木:
余韻だったりとか、昔の時間だったりとかが、感じられる写真ですよね。実際、これ撮りに行って、3年ぐらい経ちますけど、なくなったライブハウスもありますよね。

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いまはないライブハウス「屋根裏」
【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)


大和田:
そういう意味でも、どこか残像を感じるイメージにしたかった、というのがあります。特にここ(ライブハウス)では、文字が結構出てくるんですよね。ステッカーだったり、セットリストだったり。そのあたりをストレートに、そのままイメージに写してしまうと、情報として具体的なものになってしまって、目の前の光景を抽象化するのが難しくなる。なので手法の1つとして、重ね合わせた状態の、ある程度不明瞭なイメージの中に、文字とか情報というものを、埋め込んでいく。そういうことで、情報の密度みたいなものを表しています。

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【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)


藤木:
写真と音の関係についてはどうですか?撮りながら、なにか感じていたものはありますか?

大和田:
もともと、写真というもの自体が音を記録できないので、どういうイメージをそこに表現するかというところだと思うんですよね。僕が感じていたライブハウスの音って、ごちゃごちゃしてるただのノイズ、例えば、バンドとバンドの入れ代わりの音だったりとかが、すごいリアルなんですよね。ライブとライブの「合間」の音っていうのかな?そういったものが感じられるイメージ(作品)にできるか。僕にとって、音とライブハウスの関係というのが、このイメージ(作品)にあってるか、っていうのがコンセプトにありますね。

藤木:
僕、渋谷に来る度に、大和田さんもおっしゃってたスクランブル交差点の雑踏とか、あとは雑音と言われるもの、例えばクラクションの音とかを強く感じていて。そういうイメージがこの写真からもすごく感じられるんですよね。

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【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)



ライブハウスにまつわる文献や著作はあっても、"ライブハウス自体を撮る"という試みは、これまでになかったものだという。3年弱もの間、ライブハウスを撮りながら、大和田さんはなにを感じていたか。今回のトークテーマの核心にも迫る問いかけでした。
さらに、表現手法についての話が続きます。



藤木:
モノクロっていうのは、何かイメージがあったんですか?

大和田:
モノクロのほうが、さきほど言ってたコンセプトの"残像"的なものというか、影みたいなものが、よりそのイメージから想像できる、喚起させられるところがあって。カラーは、より具体的な情報なので、色彩によって感情に訴えかけたりできるんですけど、ここで見せたいのは、やっぱり影なんですよね。そこにある影が生まれてくるのは、カラーよりもモノクロなので。

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【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)


藤木:
撮影していく中で、ミュージシャンの情熱とか、余韻ももちろん写ってると思うんですけど、運営する側の思いみたいなものもなんとなく、見えてきましたよね。

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【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)


大和田:
運営する側というか、スタッフとして対応してくれた方々と、いろいろリスニングしながら進めていきました。ライブハウスって場や音楽に対して、やっぱり、相当熱い思いを持ってる人たちが運営しているところもあって。そこは、作品にかなり影響があったのかなと思います。

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【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)


ライブハウスを運営するスタッフは、基本的にミュージシャンが多い。中には、昔からそこにいる生き証人のような方もいたとのこと。またライブハウス自体も、MOVのテーマと同じく「多種多様化」しているそうです。飲食店のような場もあれば、銭湯や神社(!)と共存しているところ、わずか6畳の広さのライブハウスもあるんだとか。




写真を通じた、写真家との
コミュニケーションのすゝめ



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【Live house, Tokyo.】シリーズ(東京画サイトより)


大和田:
僕の作品はすごく抽象的なイメージというか、たぶん皆さんが、ふだん広告とか雑誌とかで見る写真とは、ちょっと違うと思うんです。 写真家っていうのは、写真を通じて社会とコミュニケーションする人間だと思うんですね。
僕は写真家として、たとえば、社会性だったり、問題意識であったり、ミュージシャンの勢図だったり、情熱だったり、いろいろな思いをこの中に入れています。写真から、そういったものが少しでも滲み出すと、単に一枚一枚の写真でも、その奥の、写ってない物語が見えてくると思うんです。
ぜひ、写真を見るときに、写っている表面だけでなく、その裏にあるコンセプトだったり、その先に感じる自分とのリンクだったり、そういったものを見てほしい。そのきっかけとして、今夜、写真家とのコミュニケーションが、少しでも生まれるといいなと思います。


大和田さんと藤木さんのトークセッションはここで終了。最後に、東京画のコミッショナー太田菜穂子さんにマイクが渡りました。


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太田菜穂子さん:
大和田さんの言葉の中に「残像」という言葉がありました。写真って実は、すごく不思議なんです。"未来に向かってのメッセージ"なんです。
写真を見る人は未来にいる。写真を撮ったときにはまだ見えていない、未来へのメッセージを、私たちは写真にしているんです。そういう意味合いで、私たち東京画のミッションは、"未来へのメッセージ"を、ちゃんと残していくことだと位置づけています。
ぜひ、写真を見ることを通して、なにかを感じ、誰かとその想いを共有する時間を、自分の人生の中にちょっと増やしてみてはいかがでしょう。





MOVのオープンラウンジで行われていた『TOKYO-GA meets MOV 2017』の会期は終了しましたが、国内外の写真家100人による作品で表現する写真プロジェクト『渋谷 - 東京好奇心 (SHIBUYA Tokyo Curiosity)』はこれからスタート。
来年1月のヒカリエ「CUBE」での展覧会を皮切りに、パリ、ベルリンを巡回し、2020年には再び東京・渋谷に帰還します。

また、B GALLERYでは、大和田さんの【Live house, Tokyo.】の展覧会とそれに併せた写真集の出版が企画されています。そちらもあわせて、ぜひ。