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日本の動物たちの生活をよりよくしていきたい--動物トレーニングのプロフェッショナル齋藤美紀さんインタビュー #04


動物の行動とトレーニングのコンサルタントであり、ブラインドドッグ(目の見えない犬)・トレーニングのエキスパートでもあるBAWアカデミー主催 齋藤美紀(さいとうみき)さん。日本の動物の暮らしを、よりよいものにするため、日夜、奮闘されています。


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行動とは、いつも、すべて、その人(動物)にとっての正解。行動を、感情ではなく科学で捉えること。そうすると、その人(動物)が、ほんとうに求めているものがわかるのだとか。

インタビュー最終回となる今回は、しつけという言葉が大嫌い!という美紀さんによる、犬との暮らし方のアドバイスです。美紀さんのパートナーAlloさんもたくさん登場します。動物と暮らしてないからって油断しないで!人間関係においても、きっと役立つお話です。

これまでのお話はこちらから ▶︎ ◯ 3つのターニングポイント活動の場を海外へより多くの動物を救うために
齋藤 美紀さん
1972年神奈川県生まれ。
法学部在学中に知ったプレス業に魅了され、卒業後はアパレルメーカーに就職。3年後、アップルのサポートセンターに転職し、アップルストア(当時はまだオンラインのみ)の立ち上げに携わる。その後、半導体のテクニカルライターを経て、2006年にドッグトレーニングのインストラクターに転身。2012年に独立し、2014年にBAWアカデミーを設立。以来、動物のトレーニングと行動のコンサルタントとして、国内外で年間約30講演をこなしている。

トレーニングより、快適な生活


----私も犬を飼っているんですけど、トレーニングとかしたことなくて。家の中でトイレだけはここでしてね、ってくらいなんですけど...
それでいいです。動物が快適なら。トレーニングは基本的に、動物の福祉の向上のためであって、トレーニングを先行しちゃいけない、と思ってます。私はこんなトレーニングできるから素晴らしい!とかじゃない。

犬がハッピーじゃなきゃ、動物たちがハッピーじゃなきゃ、意味がないじゃない?って思ってるので。別に、しないから問題なんじゃなくって、快適に暮らしてればいいんです、お互いが。ほんとにそれだけです。

Alloさんの得意技!二人三脚!?こういう楽しみが生活の質をあげているんですね。


それに、なにかを教え直すのって簡単ではないです。してほしくないことだったら最初からできないようにしたほうが、お互いに楽。ほんとに。なので、トレーニングを勉強するよりも、どうやってお互いに生活しやすくするか、っていう知識を持ってるほうが、一緒に暮らしやすいです。トラブルも少ないから。
----知らないとやってしまいがちな、よくない行動ってありますか?
私たちって、叱られる文化じゃないですか。小さいときから比較的、叱られて育ってる。それ以外の方法で、他の人を指導するとか、行動をどうやって変えるかなんて、勉強したことないからわからない。叱らないと、悪い子になっちゃうかも、みたいな。

でも、叱っちゃダメです。叱っても意味がない。基本的に叱るって、相手のためじゃなくて自分のためなんですよ。自分が、フラストレーションがたまって、体の中にあるエネルギーを解消したいから叱ってるんであって、相手のためではないんです。

いい表情!レスキュードッグだったというAlloさん。今ではこんなにリラックスできるように。


変わってほしいなら、違いを理解する


----なるほど、叱っても変わってはくれないってことですね。
そう。苦痛は苦痛しか呼ばないので、嫌なことされた相手には、嫌な気持ちしか生まれない。それって、ハッピーなことには繋がらない。犬がしてることは、そのときはもうそれ以外方法がわからないからしてること。わざとしてる、とかじゃなくて、それ以外に方法がないんです。わかるように教えてもらっていないか、教わっていても、それがどうしてもできない状況にある。

犬は、人間ではない。違う種の動物。種として当たり前の行動も、コミュニケーションの仕方も違うので、ギャップがあって当然なんですよ。私たちが気持ちいいことと、犬たちが気持ちいいこと、共通していることもあれば、違うこともある。なので、違いは違いとして認める

太陽を見上げて、こういう表情になるのは、私たちと一緒♡


私たちの生活スタイルに寄せてもらいたいんだったら、それに対してきちんとお礼をする。非言語の動物たちにとって、言葉の意味は価値を持たないので、褒め言葉だけでは、お礼にならない。彼らにとって価値のある「食べ物」を使って伝えます。

自分にとって、より価値の高いこと、重要な方を選ぶのは当然。どんな動物でも。自分が、相手にしてほしいことを選択してもらうには、それを、相手にとっても価値のあるもの、お得なものにする。相手に「変われ変われ」って言ってるだけだと、どんどん気持ちがはなれていっちゃう。夫婦といっしょですね。笑。

美紀さんのだす指の本数にあわせて、どちらから回るかを判断してるAlloさん。楽しそうー。


わからないことを受け入れ、助けを求める


----みんな違う、はMOVの合言葉でもあります。笑。
笑。ペットだと身近すぎて、「この子は自分のこと人だと思ってるんじゃないか」みたいに言うじゃないですか。まるで一体化しているかのように。思ってないからって思うんですけど。笑。

そんなふうに感情移入しちゃって、自分とその子の考えの境目がなくなっちゃう。まるで自分がその子とおなじ感覚を持っているかのような、ね。でもおなじ日本語をしゃべってる隣の人のことだって、わかんないでしょ。犬とはコミュニケーションの方法も違うのに、わかるわけない

大好きな相手がなにを考えているのか知りたいという気持ちは、よーくわかりますが、「この子はこう考えているんだ」っていうのは、決めつけ。それって、相手にとっては、してほしいことではない。誰だって、理解されたいけれど、決めつけられたくはないでしょう。
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Susan Friedman, Ph.D.が、公開・配布している資料を美紀さんが日本語に翻訳したもの。「実際に起きていることを別の言葉で置き換えた時点で、そこにはその人の意図や考えが含まれています。」詳しくはこちらの記事で!→犬へのレッテル(ラベリング)がもたらすもの


飼い主が困っているときは、犬はもっと困ってます。なので、犬を責めてもしょうがないんです。なんの問題解決にもならなくて、悪化します。犬はますます困るので、ますます望ましくない行動がふえちゃう。関係もますます一方的なものになっていっちゃう。

必要なのは助けです。助け方がわからないんだったら、助け方を教えてくれる人に、自分もその子も助けてもらえばいい。トレーナーや行動のコンサルタントが、動物の行動のプロ。助け方を教えてくれる人です。

トレーナーの仕事って、実は、動物に何かをやらせるのではなくて、その動物の視点に立って、その動物が抱えている困難を理解し解決すること。動物の精神面と行動面をサポートする人。飼い主と動物、その両方の生活と関係が向上するように手伝うプロなんです。

信頼できる人を探す


----では、助けてもらおうって思ったときに、注意したほうがいいことって?
預けるところが安全だとは限らないので、注意深く調べることですね。まずは自分の目と耳で確かめるべきだと思います。どういうふうに動物を扱ってるか、もっとも気をつけていることは何か、とか。

心身の安全を第一にしているか、必ず確かめてください。大きな声を出したり、リードを強く引いたり、首を絞めたり、精神的や肉体的に痛みを与えるような道具(痛みを与える首輪とか)を使ったり、扱い方をしているところは、論外。

恐怖や痛みを利用して、動物を人の思い通りに動かす、黒電話の人です(←前回記事参照)。そうした人たちは、犬を精神的に肉体的に傷付けても、責任を取りません。色々な言葉を使って、自分たちを正当化するだけです。バイバイしましょう。スマホの人(倫理的で科学的な行動のスペシャリスト)を選んでください
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2年間、寄稿していた「愛犬の友」。最終稿は「愛犬とともに幸せになるための5つの習慣」だそうです。ぜひ書店にて!


----実際のところはなかなか見えにくいですもんね。
今の時代は、動物に関する法律が厳しくなったし、インターネット社会で、悪く書かれてしまうと思えば、簡単に悪いことはできないとは思います。でも残念なことに、日本はほんとに遅れている。古い情報や技術をまだ信じていたり、それを使っているプロフェッショナルの方が、科学的で倫理的な知識や技術を持っている人たちよりも、断然に多いというのが現実です。

忘れてほしくないのは、ペットショップやブリーダーは、犬を売ることのプロであって、動物の福祉のプロフェッショナルじゃない、ということ。獣医さんだって、獣医学的な知識はあるけれども、科学的・倫理的なトレーニングについて勉強しているわけでありません。
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餅は餅屋。動物と暮らすということについては、きちんと訓練を積んだプロに聞くのがいい。こちらはなんとアルパカのトレーニング中。


だからよくわかっていない。わからない分野に関して、わかったように言う人ほど怪しい人はいないですよね。「犬なんて、シメてやればいいんだよ」みたいなことを言う、古い考え方の獣医さんも結構いる。なので、話してみて、そういう感じのところは、やめればいいです。選択できるので
----美紀さんご自身も悲しい経験をされた、トリミングはどうしてますか?
トリマーさんもやっぱり色々。トリマーさんは、完成した形でお金をいただくものなので、すごい嫌がってても、がんばって無理やり全部やることになる。なので、預けるときに「この子が嫌がったら途中でやめてもいいです」って言っておくといいです。どの部分が苦手そうで、それに対してどう対処したかを報告してくれる人だと、いいですね。

半年前はハサミを持つだけで逃げ出していたAlloさん。今では逆に尻尾フリフリでついてくるのだそう。お手入れが心地よく、嬉しいものである証拠。トレーニングってこういう、お互いにストレスのない生活のためにあるんですね。


あと、動物病院に連れて行くときも、トリミングのときも、私いつもお弁当を持って行きます。小さなお弁当箱に、Alloの好きなチーズとかちょっと切って入れて「途中であげてください」って。食べないっていうこともバロメーター。大好きなものを食べないというのは、相当のストレス状態。その犬は、究極に辛い状況にいるということ。それは、その犬を置いている状況や、やり方を変えるべきという、とても重要な情報です。

美紀さんがつくる、Alloさんのお弁当。「食べ物も、提供の仕方を工夫すれば、ストレスを少なくしたり、楽しみを増やしたりできる」


「食べ物あげるなんて、なに考えてるんだ、絶対だめ」みたいな獣医さんは、バイバイ。もちろん、血液検査があるとか、診察に影響があったらダメなんですけど、それ以外のときに食べ物あげたらいけないっていうのは、その人の感情論。ぜんぜん科学的じゃないです。努力に対して、それに見合ったフィードバックはしないと。その行動は繰り返されません。

毎日を楽しく!フードボールを忘れよう!


----じゃあ今日からできることありますか。
おすすめが一つありまして、これ(コング)に食べ物を入れるだけなんです。
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中が空洞になっているラバー製のおもちゃ。「中のフードを取りづらくすることで、より夢中になる子もいれば、食べるのを止めてしまう子もいます。その子の様子に合わせて、中身や詰め方を工夫するのが◎。楽しく取り組んでいるかが大事!」


フードボールで食べ物をあげるっていう感覚を捨ててもいいんです。フードボールであげるって、人が便利なだけなんです。洗いやすいし。だけど犬にとってはそんなに嬉しくもなくて。

なんか作業して食べられるほうがいいんですよ。それこそ、これを前足で押さえて、ぎゅってやったり、転がしたりして食べたり、首を傾けたりとか。何かしら工夫しないと食べられないんですけど、でもそれが大事で。作業しながら食べるって、実は、ただ食べるよりハッピーなんです

コングに詰められているのはレンジで温めたサツマイモを潰したもの。少しづつ、工夫しながらの食事に夢中なAlloさん。


ぜんぜん取れないじゃんっていうのは、ただイライラするだけなんでダメなんですけど。笑。なんかちょっと工夫するっていうのが、犬にとっては精神的に良かったりする。なので、ほんと、フードボールはさよならしても良くて。

私たち(人間)って簡単に食べれるほうが、いい。配膳してもらったりとかね。笑。だけど、動物たちは、私たちと暮らしてると、食べ物を獲得するための活動ができない。それって実は、退屈さにつながっちゃうんですね。

コングがなければ、トイレットペーパーの芯でもいいです。端っこを折ってフードを入れて、はいどうぞって。そうすると、歯でびりびり破いたり、鼻で端っこ開けたりして食べる。紙なので、間違って食べちゃっても出てくるし、心配ないです。布とかプラチックみたいなのは危ないんですけど。

「知育玩具もいろいろあるけど、高価なものなんていらなくて」このバスケットはAlloさんが自由に噛んでいいもの。(いらない名刺とかも入ってるんだって...!)


基本的に犬たちは、ゴミ箱あさりをして生き残った種族なので、常になにかを探して、なにかに取り組んで、結果いいことがある、っていうのが本来の生活。なので、1日2回の食事の方法を変えてあげるといいですよ。

トイレットペーパーの芯はもう一ついいことがあって。噛むっていう行為をする機会を提供できる。芯を噛んでるので、他のものを噛む必要が、あんまりなくなっちゃう。もちろん質感が違えば、魅力はあるんですけど。できれば望ましくないものじゃなくて、やってもいいもので、それ(噛む)をやってもらうっていう。ぜひ、びりっびりにしていただいて。笑。

噛んだり、引きちぎったりを存分に堪能しているAlloさん。


紙なので、万一食べてしまっても、少しなら排泄されます。でも、たくさん食べてしまうようなら問題なので、違う方法を探しましょう。そうしたことも、トレーナーや行動のコンサルタントは、個々に合わせてアドバイスします

美紀さんは、この道に入り、応用行動分析学を学んでから、まわりの人の行動も、つい、ABC(行動を理解するための最小単位Antecedent - Behavior - Consequence)で観察してしまうそう。例えて言うなら、絶対音感のある人が、すべての音をドレミで捉えるみたいに。

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おかげで、物事を感情的に捉えることがなくなったものの、心ない態度や言葉に、時には打ちのめされてしまうこともあるそうです。そんなとき、美紀さんをリラックスさせ、前を向かせてくれるのは、一緒に暮らして1年になる愛犬のAlloさんです。

よりよい暮らしを求めることに、終わりなんてない。動物だって一緒です。もっとたくさんの動物が、美紀さんとAlloさんのように暮らせるまで、美紀さんの挑戦は続きます。