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日本の動物たちの生活をよりよくしていきたい--動物トレーニングのプロフェッショナル齋藤美紀さんインタビュー #03


アニマル・トレーニングとは、動物のよりよい暮らしのためにあるもの。動物にとって優しいものでなければ意味がない、という思いで活動を続けている、動物のトレーニングと行動のコンサルタント、齋藤美紀さん。


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3つのターニングポイントをきっかけに、動物トレーニングの道に入り、とりわけ、ブラインドドッグ(目の見えない犬)・トレーニングに関してはエキスパートとなった美紀さんでしたが、直面した日本のトレーナー界に危機を感じ、学習の場を海外へとシフトしました。

以来、1頭でも多くの動物が、1分でも、1秒でも、快適に過ごせる時間が長くなるようにと、学び続けていますが、最近では、習得した知識や技術を、より多くの、おなじ志を持つ人たちに伝えたい、という思いが強くなってきたそうです。そこで今回は、今現在の具体的な活動と、今後の展望について伺いました。
齋藤 美紀さん
1972年神奈川県生まれ。
法学部在学中に知ったプレス業に魅了され、卒業後はアパレルメーカーに就職。3年後、アップルのサポートセンターに転職し、アップルストア(当時はまだオンラインのみ)の立ち上げに携わる。その後、半導体のテクニカルライターを経て、2006年にドッグトレーニングのインストラクターに転身。2012年に独立し、2014年にBAWアカデミーを設立。以来、動物のトレーニングと行動のコンサルタントとして、国内外で年間約30講演をこなしている。

すべては学びと普及のためにーー年に2回は渡航、講義数は30以上!


――今、年間でどれくらい講義をされてるんですか?
講義数でいうと、主催するBAWアカデミーと、講師として招待していただくものと合わせて、今年は33回です。講義時間は、1回で3〜5時間くらいが多いですね。話している間に、せっかくだからあれもお伝えしたい!となってしまい、毎回必ず脱線して、講義時間を延長しちゃいます。笑。

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こちらはMOVで開催された講義の様子。たしかに延長されてましたー。笑。


――常によりよい情報を取り入れ、発信していくために、今でも年に1、2回は海外に行くそうですね。
去年は、アリゾナ、テキサス、サンフランシスコ、ポートランドに行きました。今年は、シアトル2回とシカゴです。カンファレンスやワークショップ、キャンプにも参加したり、動物園や水族館、アニマル・シェルターとか、犬の譲渡会を回って、バックヤードやプログラムを見せてもらったり、スタッフの人から話を聞いたり。直接会って、話したり、講義を聞いて、すばらしいと思う人たちには、日本に来たりできる?みたいなことを聞いたりとか。いろんなとこ行ってる割には、観光ってものはまったくしてないですけどね。笑。

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唯一の観光っぽい?楽しみはジャンバジュース。
毎回空港で検索して「あ、ジャンバジュース、あったあったって。」笑。


――キャンプではどんなことをするんですか?
犬以外の動物たちをトレーニングします。ヤギとかロバとか、アルパカとか。面白いですよ、ヤギ。すぐにどっか行っちゃうんで。下には草(=食べ物)が生えてるし、楽しくない限りは、私に注目する人(ヤギ)なんて、基本的にはいないんですよ。途中で、切り株登りとか一緒にやって遊んだり、そうしないと、隣のヤギに頭突きしたりする。笑。

つまらなかったらすぐにどこかいく。そういう動物に、いかに自分に注目してもらうか、一緒にやることを楽しいと思ってもらうか。教え手としての重要な課題を、動物たちから、学ばせてもらいます

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こちらはロバとのトレーニング


――それは犬の勉強をはじめて、どんどん深みにはまって、ヤギとか他の動物も知りたいってなったんですか?
行動の変化の仕組みって、人も含めて、みーーんな一緒なんで、行動の変化の科学に基づいている「正の強化」を使うトレーニングは、どの動物たちにも適応できるんです。動物種によって、ストレスの現れ方が違ったり、食性とか得意な行動は違うんですけど、それ以外は共通しているんですね。

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美紀さんが日本語訳をした、Vet Behaviour Team (vbt)が制作、無料配布している犬のストレス・サイン(ストレス・シグナル)のポスター。


犬ってすごい我慢強いから、私たちのそばにいてくれるし、リードをつけておけば離れない。一生懸命、待っててくれるんですよ。ヤギなんかぷーーんてすぐどっか行っちゃうんで。犬に楽させてもらってる自分に気がつけます。犬たちありがとうって。笑。

でもそれって、私たちの技術がのびないんですよ。犬まかせというか。彼らを頼りにしちゃう。もっと集中できる時間が短い動物たちをトレーニングすると、自分たちの技術が上達するんです。なので、犬のトレーナーたちも他の動物をトレーニングしたりします。

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Arizona Humane Society。いきなり他の犬と触れることが、精神的な苦痛になる犬もいます。これはそういう犬のためのトレーニング。布をかけたゲートで、他の犬と距離を取ったり、直接見えないようにします。参加する飼い主と犬は、この中で講義を受けます。ゲートはビニールパイプと寄付され使わなくなったシーツで作っています。


――ストレスの現れ方がわかっちゃうってことですが、シェルターとか辛くないですか?見に行くの。
そう、これ、動物たちのことを学んでみて、唯一マイナスなことかもしれない。ほんとにその犬のシグナルが見えるので辛いです。アメリカのシェルターより、日本のドッグランとか動物病院の方が、数百倍辛いです。動物たちに、会えば会うほど辛い。でも会わないと、その場所の環境は改善できないので、会うことからは逃れられないんですけど。辛い状況にあるってことが、ありありと感じられる。

なんとなく、「あーかわいそうだなー、こういう所じゃ、かわいそうだなー」くらいじゃなくて。「ここはこうなってる、あれがああなっている。ここを、こういうふうにできたら、こんなふうに変わるのに」みたいな。最低限のこともしてもらえてないんだなって考えてしまうので、それが辛いかも。

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アリゾナのペットショップ内で行われていた譲渡会。知らない人に囲まれたり、触れられたりするのは犬にとって負担なので、犬はサークルの中にいて、その中で少しでも安心していられるように、ボランティアスタッフである子供たちが一緒にサークルに入ります。犬が辛そうなときは、外へリフレッシュに。



日本で暮らすあらゆる動物たちのためにーー動物園や飼育園へも訪問


――動物園や水族館はどうですか?
ケアの提供者の知識次第です。アメリカで訪問する動物園や水族館では、動物たちは、行動面や精神面の健康についても配慮されたケアをされているので、飼育やトレーニングの担当者と、とてもいい関係ができている。とてもリラックスしています。

でも、ケアについての情報を正しく持っていないところは、身体的な健康は守られていても、精神的な健康は守られていないので、リラックスとはほど遠い。なので、どちらかというと、悲しい気持ちになってしまうことのほうがい多いですね。だから、本当はもっと動物園の人たちにも伝えたいんですけど。
――飼育員の方たちにも講義をされてるんですよね。
そうですね。ただ、やっぱり動物園も組織なので、先輩や上司の考えと違うこと、これまでと違うことをするってなかなか難しいんですよ。だから、興味を持っても仕方がないと思うのか、上の言う通りにやっておく方が安全と思うのか、講義をしても、寝てる人ばっかりだったりとか。泣。

ちょっとしたことなんですけどね。すごいちょっとしたことで、動物たちの生活って変わるんですけど。生活をよくしようってことが、残念だけれど、まだ日本ではあまり飼育の目標になってない。もちろん、健康を守ろうっていうのはあると思うんですけど。精神的な健康を守るってことに、お金も時間も使われていない。

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Oregon Zoo。楽しみって大事なんだよ、という展示。どんな遊びを提供しているかが解説されています。


――動物が好きでも、動物園は辛くていけないって人も多いですよね。
海外って、動物のアクティビスト(活動家)がすごい多いから、動物園側も「私たちは、こんな風に動物を管理しています」っていうのをきちんと発信しないと、すごいバッシングにあっちゃうんですよ。だから動物園内に、教育的な展示がいっぱいされてるんです。

そもそも動物園は、コンサベーション(種の保護)や、野生では生きることが難しい個体の保護が目的なので。人を教育することにも、とても熱心。人を楽しませることが目的の日本の動物園や水族館とは違います。例えば「この動物は、なぜこの動物園にいるのか。こういう危険にさらされていて、それから保護をするためです。みなさんも、こういうふうにすれば、この動物たちを守れるんですよ」っていうのを教育されるんです。

洗剤をその辺に流さない、とか。プラスチックを捨てない、とか。そういう掲示がしてあって、トレーニングに関しても、なんでトレーニングが必要なのか書いてある。あとは、エンリッチメントっていって、動物用のおもちゃみたいなものが入れてある理由もちゃんと書いてある。どうしてこういうものが重要なのかっていうのを、すべて説明してあるんです。それで募った寄付とかで、動物舎を改装したり。

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こちらもOregon Zoo。彼らの健康の管理をするために、食べ物を使ってこういうトレーニングしているよ、ということを解説している、インタラクティブな展示。


――動物園自体が教科書みたい。たしかに日本の動物園と違いますね。
海外の人は、獣医さんとかであっても「吠えない犬が欲しいんだったら飼うな!」みたいな。「猫を飼え」とか「aibo飼え」みたいに言ったりするんだけど。笑。日本はそういう言い方はしないですよね。

結局みんな、事なかれ主義っていうか。なにも言わずに、なんとなく自分の利益だけを守って暮らしてる感じがあって。それはちょっとかわいそうですよね。動物の声を代弁する人は、ほんとに少ないんですよ。私の師匠も言ってるんですが、トレーニングのプロは、福祉のプロでもないと、動物が被害者になっちゃう。その意識は、日本の人たちに教えなきゃなーって思ってるんです。

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Oregon Humane Society(シェルター)のトレーニングのプログラム。譲渡後のケアと、飼い主の教育のためのもの。飼い主が学ぶことは、犬猫の生活の質の維持と向上には欠かせません。



より多くの動物たちと、動物に優しくしたい人たちのためにーー自身の活動をシステム化していきたい


――なにか、今後の展望などありますか?
これまでの生徒さんたちが、これからも頑張り続けられるように、今、個人でやっていることを、きちんと法人化します。動物に親切にしたいと思っている人が、動物たちにとっていいことをやり続けられるシステムを作ると決めました!高い意識と倫理基準を持って、努力している人を認定する制度です。
――具体的には?
新しいプラットフォームを作りたいんです。私はOSになりたい。笑。動物のことを本当に思っている人たちが、得意分野を持って活躍できる。そして、その人たちの意識の高さや努力を、もっと多くの人に向けて発信していきたいんです。

それに、動物たちの生活向上には、精神面や行動面のサポートも必要です。それを、より多くの人に知ってもらえるよう、広く発信することにも取り組んでいきたいです。動物たちに優しい見方や、やり方に興味を持ってくれる人が増えるように。動物たちが幸せになって、人も幸せになれるように。そうでないと、日本の動物たちの暮らしはよくなっていかないので。

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敷地が広いから、とか、施設が新しいから、とか、日本はとかくハード面の素晴らしさに目がいきがちです。でも海外の施設のいいところは、そこで働くスタッフの知識や意識、ケア実務といったソフト面の質が高いところ。これは敷地の狭い日本でも取り入れられることだと美紀さんはいいます。「動物のケアやトレーニングに関する、知識、意識、技術=人の頭の中は変えられるので!私はその向上を目指してます!」

さて、最終回となる次回は、しつけという言葉が大嫌い!な美紀さんによる、犬との楽しい暮らし方についてのアドバイスです。9月25日に公開予定です。お楽しみに。